『それからマジで入店してない』

 タバコを切らした、という名目で悟浄は目に入ったコンビニに入店した。空調の効いた心地いい室温にほっと息を吐く。タバコ以外にもなにか買っていくかと店内を歩いていると、丁度スイーツコーナーの前で見覚えしかない金髪の男が居ることに気がついて、悟浄は「三蔵」と声をかけた。

「なぁにしてんの、こんな所で」
「お前こそなにしてんだ」

 三蔵はちらりと悟浄の後ろに見える時計を見て「今の時間、お前は『見回り』しているはずだろう」と既に呆れた表情を浮かべて呟く。それに悟浄は「一応してるぜ?ただタバコ切らしたからついでに買いに来ただけ」と返しつつ、周囲に目を向ける。

「ってか、もしかしてマジで一人でいる?悟空も八戒も連れてきてねぇの?」
「八戒は今日は茶楼の方にいるし、悟空はまだへバったままだからな」

 三蔵の返事に、悟浄は一瞬表情を歪める。
 先日起きた小規模な抗争で、三蔵の右腕である悟空は負傷した。それから悟浄も色々と後始末に追われて悟空の状態を確認出来ていなかったが、まだ復帰できる状態ではないらしい。

「でも、だからって一人で出歩くなや。誰かは連れて歩けよ」
「コンビニくらい気軽に来させろ」
「この間抗争があったばっかりなんだぞ。悟空がまだ復活してねぇなら、せめて俺に声かけろよ」

 自分は組織の中で正式な役職はもっていないが、戦闘員としては充分な実力がある。実際いままでも悟空の代わりに右腕代理として何度も三蔵の隣に立ったこともあった。今更遠慮する間柄でもないだろうにと思っていると、三蔵は「そんなもん気にしてたら、マジでどこにも行けなくなるだろ」とため息を吐きながら答えた。

「それに、俺にも一人になりてえ時間が欲しい時もある」
「…………じゃあ、俺は邪魔だった?」

 悟浄は静かに問いかけた。それに三蔵は「お前が邪魔してくるのは今に始まった事じゃねぇだろ」と鼻で笑うと、目の前にあった大福餅を手に取って悟浄に押し付けた。

「タバコ買うんだろ。ついでにこれも買え」
「三蔵の奢りなら会計一緒にスっけど?」
「ならそこで少し待ってろ」

 三蔵はそういうと悟浄に大福餅を持たせたまま買い物カゴを手に取り、店内を歩き回り始めた。あちこちでカゴに商品を入れていく音がして、悟浄は「人を荷物持ち扱いする気だな、あいつ」と苦笑しながら独り言を呟く。
 数分後、カゴの中一杯に商品をいれて戻ってきた三蔵は「会計してこい」とそのカゴを悟浄に押し付けた。悟浄がそれを受け取ると、三蔵はさらにカードを悟浄に押し付け「先に店の外に出てる」と足早にコンビニを出ていった。湿度の高い外でわざわざ待つ必要は無いだろうに、と思いつつ、悟浄はカゴを持ってレジに向かう。若い女性の店員がテキパキとレジを打っていく中、一瞬店員の手が止まった事に気がついて、悟浄はタバコの番号を言おうとしていたのを止めて視線をカゴの中に移した。

「な…………っ!?」

 見ると、カゴの一番下は全てコンドームで埋め尽くされていた。その上には個包装のローションも数箱置かれていて、よく見ると既に打ち終えた商品側には数枚入りのペットシーツまである。
 完全な『準備品』に、悟浄はタバコを頼む事も忘れて慌てて会計を済ませると、コンビニを出るなりタバコを吸いながら待っていた三蔵に「お前マジふざけんなよ!!」と顔を真っ赤にしながら言った。

「お前が商品集めてんの見られてるし、それ会計してるの俺だしで完全にレジのねーちゃん「あ……」みたいな顔してたじゃねぇか!!もう来れねぇよこのコンビニ!!」
「勝手な行動していたお前への罰だ」

 やはり暑いのだろう、鼻頭に汗を滲ませた三蔵はタバコを灰皿に押し付けながら言う。

「それにこの後使うものに違いねぇんだし」
「……え、嘘だろ?この量使う気?」
「……普通は備品だと思うだろ」
「あ……」

 段々とさらに顔を真っ赤にしていく悟浄に、三蔵はくっと小さく笑うと「まぁ期待に応えてやらねぇ事もねぇがな」と歩き始め、悟浄は「期待してねぇ!!」と慌てて弁明しながらその後ろを追いかけた。