『ラブホテル』

 ラブホテルが立ち並ぶ通りから狭い路地を抜け、ホテルの裏の小さな空き地に辿り着いた男が、肩で息をする。

「――チッ、まだ追ってきやがる」
「ざーんねん。足遅すぎんのよね、オニーサン」
「て、てめえ!なんで――ッ」

 声のした方に振り返ると背中からの衝撃に男は倒れ、そのまま気を失ったようでぐったりと横たわった。

「悟浄」
「よ、こっちは終わったぜ、三蔵」

 男が来た方向から後を追って三蔵とその後ろから数人の部下たちが来たので、どこから拾ってきたのか、悟浄は手に持っていたパイプで倒れている男の体をぐいぐいと押す。
 部下たちが男を両脇から抱え上げるのを見ながら、三蔵は煙草に火をつける。その隣にいた悟浄も煙草を咥えポケットを探るがライターは見つからなかったようで、三蔵から火をもらっていた。

「ではボス、悟浄の兄貴。あとは俺らがやっときますんで、お二人はあとはゆっくりしてください」
「おう、おつかれー」
「ああ、あとは頼む」
「へい――お疲れ様でした」

 挨拶をした三蔵の部下に悟浄は手をひらひらと振り、見送った。
 元々ホテルの従業員が休憩で使う場所のようで、一角に置かれた据え置きの灰皿を挟んで腰を下ろし、三蔵と悟浄はぷかぷかと口から煙を吐き出した。

「『あとはゆっくりしてください』ってよ――どーする?一発ヤってく?」

 くいくいと悟浄の親指がホテルの看板を指す。それに三蔵は鼻を鳴らし「誰が」と吐き捨てると、悟浄の触覚がしんなりと萎れた。

「で、す、よ、ね……はい、お疲れさんした〜」

 悟浄は疲れた体を緩慢に立ち上がらせ煙草を灰皿に捨て、尻の砂埃を払って背後の三蔵に手を振りながら帰ろうとするとグイと手首を掴まれた。

「なに?ヤる気になった?」
「誰もヤらねえとは言ってねえ」

 手首を掴まれたまま三蔵の方に体を向けると、バチリと紫の瞳とぶつかり唇にねっとりとした感触が這い、中に入ろうとする。

「は、なら良かった」

 言葉を放つと同時に侵入してきたそれを悟浄は甘んじて受け入れ、金糸の髪と白い頬をまだ綺麗な方の掌で包んだ。


 ***


「ん――んう、さんぞ、もっと……ん、ふ」

 悟浄の甘い声と吐息が三蔵の耳に心地よく響く。

 ホテルの受付を済ませ部屋へ入った二人は、準備を済ませると疲れた体を温めようと大きな風呂に大量の泡を作り始めは無邪気にはしゃぎ浸かっていたが、足で小突き合ううちに三蔵の足が悟浄の内腿から鼠蹊部にかけて滑ると「ひゃっ」と悟浄の口から高い声が出た。咄嗟に口元を手で覆ったが、三蔵のスイッチがしっかり入ったようで、気付けば三蔵は悟浄の唇に齧り付いていた。三蔵の下半身にするりと手を伸ばし撫でるとすでに硬さを持ってひくひくと勃ち上がっていた。

「さんぞ、準備万端じゃん。ふろ、でよ」

 顔を紅潮させ潤んだ目で見上げる悟浄に三蔵はニヤリと笑うと、悟浄の口の端から伝い落ちる涎をぺろっと舐め取り軽く口付けた。


 体を拭くのもそこそこに悟浄はベッドに乗り上がると備え付けのゴムを取り出し、まだ体を拭いている三蔵の前に膝をつき、目の前に聳り立つそれに手際よく装着した。

「なんだ、今日は舐めねえのか?」
「んー、実は今朝唇切っちゃってさ、あんま開けらんねーのよね」
「今日の戦闘の時か……?」

 三蔵の眉間に皺が寄り、心配してくれてんだ、と悟浄はくすりと笑った。

「ちげーよ。あんな奴等に俺がやられるわけないっしょ」
「……ならいい。――だが、さっきキスしても平気そうだったじゃねえか」
「キスはさ、あんま口開けねーじゃん?でもそのさんぞーサマのご立派なの咥えるのは流石に?と思って。治ったらまた三蔵のだーいすきなフェラで可愛がってやるからさ?」
「ッ……別に好きじゃねえ」

 少し惜しそうにしながら親指で優しく触れると悟浄は片方の口角を上げて「さ、ヤろうぜ、三蔵」と立ち上がって三蔵の手を引きベッドへ誘った。
 二人はベッドに座ると、悟浄が三蔵の腿に跨り対面で座る姿勢をとる。どちらからともなく貪るように口付けると、先の三蔵を求める悟浄の声が水音とともに響いた。


「ん……さんぞ、もう挿れていいよ」

 ローションを塗り込み解していた指を抜き、穴に宛がうと「ん」と悟浄の口から漏れて、四つん這いで見えないが赤い耳から悟浄の興奮と緊張が伝わる。穴を押し広げるように腰を進めると、垂れたローションで滑り悟浄の尾骨を撫でた。
 「ぁんっ」と声が上がると悟浄は更に顔を赤くして振り返った。

「ば、ばか!むずむずすんだろ!早くしろって!」
「……そうか」

 三蔵は良いことを思いついたと言うようにニヤリと笑うと、悟浄の穴を親指で広げて再度押し当てるとゆるゆると腰を揺らし滑らせる。その度に悟浄は喘ぎ、自ら腰を揺らし始めた。
 疼く穴になかなか入らず、悟浄は思わず自身の股間に手を伸ばし先端に触れると先走る液が垂れ、手のひらでくるくると弄ると竿を擦る。同時に尻をゆらゆらと揺らしながら早く早くと三蔵を誘った。

「あ……あ……」
「貴様のこの姿見たらアイツらはどう思うだろうな」
「んん……幻滅、するだろうな……ハァッ、アッ、きもちい……」
「じゃあ見せるわけにはいかんな」
「ば、か……ァ、見せるわけ、ねえだろ……あ、もう、やだ、イキそう……!」

 なかなか挿れられないまま擦っていたが、ヒクヒクとさせたまま思わぬ快感で悟浄は達しそうになっていた。途端穴から親指が離れ、散々穴をくすぐっていた熱を持った棒がズプリと侵入し、一気に奥を抉る。

「ああッ!」

 同時に悟浄の先端から吐き出された白い液体がシーツに散りじわりとシミを作った。悟浄は倒れるように顔を枕に押し付け、腰だけ高く上がりビクビクと跳ねていた。
 きゅう、と締める穴に快感を感じながら、まだ達してない三蔵はずるりとギリギリまで引き抜いて再度奥へと突き入れた。三蔵が前後する度に気持ちよさそうに声を漏らす悟浄の背中に抱きつき、乾いた背中に何度か吸い付き痕を残した。
 パンパンと肌がぶつかり、「ま、って」「イってるのに」と悟浄が喘ぎながら訴えたが三蔵は聞く耳を持たず、暫くして三蔵が小さく「クッ……」と漏らすと、中でドクドクと脈打つのを感じる。ゴム越しの快感で、悟浄の先端からまたパタパタと溢れた。


 ***


「ったくよぉ!イってるっつってんのに!なんで続けんだよ!」
「の割には気持ちよさそうに鳴いてたじゃねーか」
「……!そ、それは!そうだけど!」
「本当にドMだな。精々敵にやられても変な声出さねーように気をつけるんだな」
「誰がお前以外とヤるかよ!」
「……俺は攻撃されてもって意味で言ったんだがな」
「……あ」

 濡れた箇所を避けてダラダラと言い合いながら一服していると、三蔵がテーブルに置かれた冊子を見つけて全裸のまま取りに行きそのままパラパラと見始めた。
 悟浄は煙草を吸いながら(良い男は全裸で歩いてもサマになんのね)と熱を持った目で見ていると、くるりとこちらを向きフロントへ電話をかけ用件を伝えるとガチャリと切った。

「え、なに。さんちゃん、まさか」
「……ああ、今日は存分に"ゆっくり"するぞ、悟浄」

 ニヤリと笑う三蔵に、悟浄はただひくひくと笑うしかないのだった。

「やだー!!!」