スーパー戦隊!参上!
―――――この世に悪が、蔓延る限り。
「「「俺(僕)たちが、悪を倒す!!」」」
「……みたい、デスヨ?」
どどーん! と背後に爆発が見えるようなポーズを決め、一人を除く三蔵一行は荒野の中に格好良く立っていた。
「で、出たな三蔵一行!」
「ちょっと悟浄、ちゃんとポーズ決めてよ!」
「まだまだ自覚が足りねぇらしいな」
「一番大事なところじゃないですか」
「え、え、何、俺だけおかしいの???」
「おい、俺たちを無視してんじゃねぇ!」
「うるせぇ! 取り込み中だ!! さっさと片付けろ悟空」
「まっかせとけー!」
そう言って飛び出していく悟空はいつもの見慣れた服ではなく、全身黄色のタイツに赤いマントを靡かせている。
手にする得物はいつもの如意棒のようだが、違和感がありまくりだった。
「ぎゃー!!」
悟空に遅れて飛び出した八戒も、全身緑色のタイツに白いマント。
恐る恐る三蔵を見ると、全身紫色のタイツに黒いマントで煙草を吸っていた。それもう色んな意味で怖い光景だった。
「くそっ、覚えてやがれー!」
対する敵さんたちはいつもの妖怪……の、はずなのだが、やたらと打たれ強く、完全に殺られる前に退散していく。
「ッチ、今回も逃したか」
「次は倒すかんなー!」
「何度来ても僕たちは倒せませんよ」
なんかもうわざとやってるんじゃなかろうか、というくらいの既視感のある展開。
三蔵たちは敵がいなくなると、全身カラータイツから一瞬でいつもの服装に戻った。
「なんなの、お前ら……」
「悟浄どうしちゃったんだよ。もう敵は行っちゃったじゃん」
「いつまでも叩き潰したくなるような格好してんじゃねえよ」
言われて、今の今まで見ないようにしていた自分の格好を見下ろす。
赤い全身タイツに茶色のマント、頭から二本の触覚だけが飛び出ている。
「なんじゃこりゃー!!!!」
「……っ!!」
ガバっと悟浄は上半身を起こす。
急いで周りを見回すと、よくある見慣れた宿の壁に木製の床。
昨夜は運悪く大部屋しか空いておらず、四人一部屋で寝るしか無かった。
二つのベッドは三蔵と八戒に取られ、用意された簡易ベッドは悟空が勝ち取った。
仕方なく、少し狭いがソファで寝ることになった悟浄だったが、そのせいで大変に夢見が悪かったらしい。
まだ外は薄らと明るくなりだした頃で、誰も起きていなかった。
「夢か……。怖っ」
たった今見た夢が有り得ないはずの状況なのに妙にリアルで、嫌な汗をかいてしまっている。ソファの寝心地もいいとは言えず、体のあちこちが少し痛む。
悟浄は宿の前の通りを散歩してから、戻ったらシャワーを浴びようと思い上着と煙草を手に取った。
三人を起こさないようそっと部屋を抜け出し、宿の外に出る。
起きた直後よりも空は明るくなっており、朝の澄んだ空気の匂いがする。
「何してる」
「あれ、起こしちゃった?」
悟浄が煙草に火を付けていると、背後から三蔵の声がした。
有り得ないとはわかっていつつもほんの少しだけドキドキしながら振り返ると、いつもの法衣に仏頂面をした三蔵がいた。
「……なんだ」
「いや? やっぱいつもの三蔵が好きだなって」
「朝からバカ言ってんじゃねえよ」
「えー。嬉しいくせにー」
「で、本当は何なんだ」
「聞く? 聞いちゃう? 辞めといた方がいいと思うけどな」
「さっさと吐け」
「じゃあ、聞いても怒らない?」
「…………ああ」
何を思ったのか、三蔵はどこか覚悟を決めたような顔をしている。
そんなに畏まられるとこちらとしても話し辛いんだけどな。と悟浄は思ったが、仕方が無いのでさっき見た馬鹿みたいな夢の話を始めた。
「つまり、てめぇのその花畑みたいな脳ミソに穴を開けて風通しを良くしてやればいいんだな?」
「だから怒らないかって聞いたんじゃん!」
「このバ河童が!」
「何だよ、そんなに怒ることないだろー!!」
実は、三蔵は悟浄が冷や汗をかきながら飛び起きたときに一緒に起きていた。たぶん、八戒も起きていたと思う。
てっきり過去のトラウマか何かを夢に見たのだと思い、部屋を出ていった悟浄を追いかけたのだった。
それが、話を聞けばくだらない子供が見るような夢だと言う。少し心配をして損をしたと三蔵は思った。
「次相部屋になったら、そんなくだらねぇ夢見てる暇があると思うなよ」
「三ちゃんってば、欲求不満なの?」
「テメーこそ、溜まってるから訳分からねぇ夢見るんだろうが」
「んー、案外そうだったりして」
そう言ってケラケラと悟浄は笑うのだった。
―――――次の日。
「~~~~~ッ!」
三蔵は、悟浄に聞いたのと同じような全身タイツの悪夢を見てしまう。
運よく全員が一人部屋を確保できた夜だったのだが、悟浄の部屋に消えていく三蔵を、皆が寝静まった夜更けに誰も止めることはできないのだった。