夜の果てまで
魔力供給実験
攻めの奉仕シーンが含まれます!
悟浄は今、聖光宮の中心にそびえる魔法塔の足元へ来ていた。
今回ここで行われるのは、極秘の魔力供給実験。対象者に選ばれたのは、三蔵によって保護された青年・悟浄という設定である。
悟浄の死罪を免れるための設定であった。
そしてこれは大嘘というわけではなく、ほとんどが事実である。
ただし、公には魔力の供給が成功すれば兵士の魔法を強化できるという大義名分を付けているところが事実とは違った。
「悟浄、何かあったら助けを呼んでくださいね。悟空が気付きますから」
本来、魔法塔に入るには厳重な審査と多数の承認が必要となる。
たとえ皇帝といえど、正式な手続きを経なければ立ち入りすら困難だった。
だが、三蔵は皇帝の権限を使ってすべてを最速で通した。
反発や警戒を覚悟のうえでの強行だったが、その代償として悟空と八戒の入塔許可までは間に合わず、彼らは外での待機を余儀なくされた。
八戒はそんなに急がなくても、ちゃんと承認を得られるまで日を伸ばそうと言ったが、悟浄が「一日でも早く結果を出したい」というのに勝てなかった。
「あの微精霊ってやつだろ? 俺には見えないから実感がねぇんだよな」
「大丈夫だよ悟浄! 悟浄のこと気に入った子がよく傍についてるから。今もいるし」
「えぇ……。それはなんか、ちょっと怖ぇな」
思わず辺りを見渡すが、相変わらず気配すら感じられなかった。
「おい、早く行くぞ」
「ああ、今行く。じゃ、また後でな」
悟浄は悟空の頭を乱雑にかき混ぜると、三蔵の元へと駆けて行った。
「本当に、何事もなければいいんですが……」
「大丈夫だよ。三蔵がついてるもん」
「そう、ですね。信じて待つしかないですよね」
八戒と悟空が見つめる先、二人は塔の中へと姿を消したのだった。
塔の内部は、魔力で構築された静謐な空間だった。
先に行くにつれ細くなる円錐形の形をしており、高さはおよそ三百メートルにはなると聞いている。
そして、内側の壁に沿うように螺旋階段が延々と伸びていた。
「もしかして、これを登るの?」
「そうしたければお前だけ登っても構わんが、今は時間が惜しい。こっちだ」
三蔵は階段の入り口を通り過ぎ、魔法塔の中央へ立った。
「転移魔方陣だ。なるべく近くに立て」
そう言われ、少し距離を空けて三蔵の正面に立つ。
「……魔力が足りんか」
「え、ちょ! うわっ!」
突然、三蔵の腕に引き寄せられ、ぎゅっと密着する形になった。
「ちょっとあの、俺、野郎と抱き合う趣味はないんですけど」
「てめぇの魔力不足のせいだ。黙ってねぇと舌噛むぞ」
「ヒェッ」
瞬間、ぐっと体を引っ張られる感覚がしたと思ったら、急激に浮遊感が襲ってきた。
思わず三蔵の服をぎゅっと掴んでしがみ付く。
実際は三秒ほどだったらしいが、体感で五分はかかった。
地に足が付く感覚がして、たまらずへたり込む。
「き、きもぢわりぃ。おえぇぇ。何か出そう」
「おい、吐くな」
「事前に何が起こるか言ってくれてもいいだろ!」
「言って、理解できたのか?」
「~~~~~ッそれは、さぁ! 心の準備ができただろ!」
下腹がヒュンッとして、三半規管が乱される感覚に軽い吐き気がする。
やったことはないけれど、バンジージャンプってのはこういう感じなんだろうなと思った。
それにしても、三蔵は本当に自分だけで完結して先に進むのをやめてほしい。ひとこと言ってくれるだけで違うというのに、三蔵が何を考えてるかこれっぽっちもわからない。
そういえばと思い出し、八戒が持たせてくれた水筒を出して一口飲む。これを持ち込むのも検査があったりで苦労したが、苦労しただけのかいはあった。
「うわっ、なんだこれ! うまいし超効くじゃん。スッキリした~!」
「玲蜜水(れいみつすい)だ。悟空がいないと作れん」
「秘蔵のお飲物ってわけですか。秘密が多くて大変そうデスネ」
「てめぇもそのうちのひとつだってことを忘れんな」
三蔵は煙草を取り出そうとして、検査時に取り上げられたせいで空振りしてしまい舌打ちをしている。
煙草を回収した衛兵は三蔵に視線で殺されそうになっていて、大変可哀想だった。
「来い。さっさと始めるぞ」
「はいはい」
転移魔法で着いたのは、神殿の前のちょっとした広場だった。手摺りはあるが、下を覗き込む気にはなれない。
三蔵の後を追って中に入ると、神殿の扉が音もなく閉まり静寂が降りた。
魔法塔最上部のこの空間は、外界から完全に隔絶されていた。
結界の影響か外の風すら届かず、空気は澄みきっているのに、どこか重く感じられた。
床には精緻な紋様が刻まれ、天井は半球状に高くそびえている。内壁には星のような魔力灯が浮かび、淡く明滅していた。
三蔵は祭壇のような台座の前に立ち、掌をかざして結界の再確認をする。
完全に閉ざされた密室。ここで何が起きても、外部には漏れない。
「……準備はいいな」
「やるしかねぇんだろ」
悟浄は不機嫌そうに口を尖らせながらも、静かに中央の石台に腰を下ろした。
神殿の内部の様子と、どういったことをするかは事前に三蔵から聞いている。
三蔵は手元の古い文書を一瞥し、石台脇の供給装置に手を添え、事前に用意しておいた魔力を三蔵から悟浄へ移すための転写陣が書かれた紙を供給装置の近くに置いた。
装置は塔そのものから魔力を引き出し、一定の濾過と制御を施して皇帝に注がれる。
皇帝のみが魔力を引き出すことができる特殊な造りだったが、この瞬間に初めて、皇帝である三蔵を媒介として悟浄へとその魔力が注がれる。
「いくぞ。少しずつだ。無理だと思ったらすぐに言え」
「おう」
その言葉を最後に、実験は始まった。
三蔵の手元から淡い光が走り、石台に設置された転写陣がゆっくりと点灯を始める。
魔力が塔の内部から引き出され、まるで生きているかのように脈打ちながら悟浄の身体へと向かう。
初めは微細なものだった。しかし、魔力が肌に触れた瞬間、悟浄の眉がぴくりと動いた。
体内の血液が反応する。異物として拒絶し、しかし同時に渇望するように魔力を取り込もうとする。
「……ッ、なんだ、これ……!」
悟浄の呼吸が浅くなる。
魔力が血流に混じり、身体の隅々にまで広がっていく。その過程はまるで、体の内側から張り裂けるような圧迫感と熱を伴っていた。
三蔵は即座に制御を強め、供給量を抑えようとした。
「っくそ、引っ張られるッ」
「ぐ、ぅ、あつ、熱いっ」
「耐えろ悟浄! 今止める!」
三蔵は焦っていた。
魔力の供給を止めたいが、悟浄の身体が魔力を求めどんどん吸い取ろうとしている。
恐らく、薄かった体内の魔力を本能に従って満たそうとしていた。
磁石のように悟浄の身体に張り付いたまま離れない手。やむを得ず、三蔵は転写陣の書かれた紙を自分の手ごと攻撃魔法で焼いた。
悟浄に当たらないよう、最大の集中と魔力制御で。
―――バチッ!
「かはっ! は、あ、あつ、あつい、さんぞ、あついっ」
「ハァ、ハァ、大丈夫、大丈夫だ悟浄。今、なんとかする」
三蔵は傷を負った右手に布をぐるぐると巻き、悟浄の身体を調べた。
悟浄はお腹を抱えるように丸くなって身体の中を駆け巡る魔力に耐えているようだった。
「ッチ、魔力過多だな。とにかく体の外に出さねぇとまずいな」
「あぅ、ぐっ」
「悟浄、大丈夫だ。絶対になんとかする」
悟浄の身体は腹部を中心として、熱くなっていた。そのせいか、熱に浮かされたように意識も朦朧とし始めている。
三蔵は八戒が持たせた水筒の中身を口に含み、悟浄に口づけた。
「ん、く」
悟浄は喉を滑り落ちる冷たさに、夢中で三蔵に口に吸いついた。
だが、この玲蜜水はあくまで魔力のバランスを整え、消耗した気を補うためのものである。身体の許容範囲以上の魔力をなんとかしてくれるわけではない。
それでも、身体のあちこちにバラバラに駆け巡っていた魔力の動きは安定したようで、一番熱かった腹部は少し落ち着いたようだった。
「悟浄、脱がすぞ」
三蔵は、悟浄のシャツのボタンをはだけ、ズボンのベルトも緩める。
外気に触れると涼しいのか、悟浄の眉間のしわが少し減った。
「もう少し、栄養も必要だな」
悟浄の痩せ細った身体をそっと撫で、三蔵は目を細めた。
そして、これからする行為を思い、フッと息を吐く。
悟浄のズボンの前を寛げ、下着を降ろした。
「え……。なに」
そこでようやく悟浄が違和感に気づいたのか、目を開けた。
「悟浄、お前の身体に溜まった魔力を今すぐ出してやらねば、その内魔力過多で死ぬ。ここには誰も入って来れない。だから、俺に身を委ねろ」
「なに、なにを」
三蔵は悟浄に覆いかぶさると、弱弱しくて熱い陰茎を優しく口に含んだ。
「ちょ、なにして!」
三蔵を止めようと悟浄は起き上がろうとしたが、身体に全く力が入らなかった。
そして、悟浄のお腹を押さえている三蔵の右手に、血の滲んだ布が巻かれているのを見て余計に抵抗ができなくなる。
「あ、あ、あ、そこ、やめっ」
じゅぷじゅぷと口の中で扱かれ、嫌でも昂ってくる自身と身体を巡る熱に悟浄はどうにかなりそうだった。
早く楽になりたい。でも、今の状況が受け入れられない。
なのに、出したい、出したい、出したい。
―――キモチイイ。
「イく、イく、だめっ、さんぞっ」
イく瞬間、三蔵は口を離したので悟浄はお腹の上に白い液体をぶちまけた。
「やはり、まだダメか」
「ハァッ、ハァッ」
三蔵は悟浄の頬を撫で、身体に手を滑らせる。
身体の熱はまだほとんど引いておらず、体内を魔力が巡っているのが感じられた。
それから、悟浄は三蔵の口で、手で、何度も何度もイかされた。
もう擦っても何も出ないと思っていたら、最後はナカに指を突っ込まれ、内側から直接前立腺を刺激されて強制的にイかされた。
「流石にもう大丈夫か……」
どれくらい時間が経ったのか。
三蔵がようやく悟浄を解放したとき、悟浄は意識を失っていた。
途中から魔力過多による熱は落ち着いたが、別の熱に侵され喘いでいた。
今は頬の赤みも落ち着き、荒れていた魔力の流れも目視でわかるほどに穏やかになっている。
三蔵は悟浄の額に手を当て、念のため体温を確かめた。まだ微熱は残っていたが、危機は去ったと判断できる程度だ。
神殿の中は実験の余波で空気が重く淀んでいた。転写陣は焼け焦げて沈黙し、魔力の気配も落ち着いている。
三蔵はぐちゃぐちゃになった悟浄と石台の上をざっと綺麗にしてから、浄化魔法をかけた。
そして、神殿の窓を開け放つと結界も弱まり高空を渡る冷たい風が流れ込んできて二人の間を抜けていく。
「ん、う……」
三蔵が窓際から戻ってくると、悟浄がゆっくりと目を開けた。
三蔵の姿を確認すると、面白いように顔が赤くなっていく。
「お、おま、おま、俺に、~~~~~!」
「そうするしかなかったんだ。諦めろ」
「もうお嫁にいけない」
「なら俺が貰ってやる」
「はあ?!」
「冗談だ」
「死ねっ! ハゲ! 鬼畜王様!!」
悟浄は台の上に突っ伏して暴言を吐きまくっている。
流石に三蔵も言い返すことはせず、悟浄の横に腰を下ろした。
「身体はどうだ」
「ちょっとダルいけどもうなんともねーよ!」
「そうか。戻れそうか?」
「……戻ったら、なんて言うつもり?」
「そりゃ、失敗した。だな」
「他には?」
「魔力過多になったから、魔力を放出させた」
「どうやって?」
「……覚えてねぇ」
「んな言い訳通るかよ! あー最悪。無理。戻りたくない」
「日が暮れるまでには戻るぞ」
「わかってるよ」
そうして、二人はしばらく神殿の中に留まっていた。
悟浄はぶつぶつと文句を言い続けていたが、それも次第に聞こえなくなり、代わりに寝息が聞こえてきた。
なんだかんだ言って、身体は疲れていたのだろう。
石台の上は寝心地が悪そうだったので、三蔵は仕方なく悟浄の頭の方に移動し、膝の上に頭を乗せてやった。
身体を動かしても起きる様子はなく、無防備に寝顔を晒している。
煙草もなくて手持ち無沙汰だった三蔵は、悟浄の長い髪を梳きながら、窓の外を眺めていた。