Electrical Life

温度の奪い合い(前編)

前座はいいから本番だけ読ませてくれ。の人は(後編)をお読みください。
本当は別の家電をテーマにする予定だったのですが、我慢できませんでした。
炬燵から一気に季節が変わってますが、このシリーズでは時系列考えてません!

「あーーーっつい!」

 そう言って玄関から転がり込んできた悟浄は、一目散に扇風機の前を陣取った。

「で、どうだったんだ」
「ちょっと待って〜涼んでからにさせて〜」

 暑くて長い髪を項の辺りでゆるくお団子にし、クーラーの下の扇風機を強モードにして涼んでいる悟浄。
 三蔵からの依頼をこなし、報告をかねて涼みに来ていた。
 外は30℃を超える猛暑で、仕方がないので三蔵は氷を入れたグラスに麦茶を注いで出してやった。

「お、さんきゅー」

 そういうと、悟浄は一気に麦茶を飲み干す。
 そこでようやく一息ついたのか、依頼の結果について話始めた。
 とはいえ、ほとんどは八戒が報告書にまとめてくれていたので、悟浄は自分主観の部分を少し補足するだけで良かった。

「この件はもう片付いたと思って良さそうだな」
「ああ、いいと思うぜ。つーか、猛暑手当てつけてくれよ……」
「んなもんはねぇ」
「暑すぎてもう外に出たくねーっつの!」

 そう言いながら、悟浄はクーラーの設定温度を下げている。

「おい、勝手に変えんな」
「えー! もうちょい下げてもいいだろ!」
「それじゃあ寒ぃだろうが。貸せ」

 三蔵がリモコンを奪い取り、元の設定温度に上げる。

「外で働いてきたダンナ様を労ってくれてもいいだろ!」
「誰がダンナ様だ! ふざてんじゃねぇぞ」
「俺様鬼畜生臭坊主!」

 悟浄は「シャワー借りるからな!」と言い捨てて風呂場へ消えていった。
 勝手に使えばいいものを、毎回律儀なやつである。
 八戒の教育の賜物であろうと思う。

 悟浄を見送ってから、いつもより妙に目の裏に赤が残るなと三蔵は思った。
 ―――目を閉じてみる。
 すると、こちらに背を向けて扇風機の風に当たる悟浄の姿が浮かんできた。
 暑いからと縛っているため、目につくのは無防備な悟浄の項。首筋に垂れる汗の雫。
 まだ外は明るいというのに、三蔵は無性に悟浄を泣かせてやりたくなってきてしまった。

 三蔵が最近ハマっているネット通販で、間違えて怪しげな広告を開いてしまった時のこと。
 そこはアダルトグッズ専門のショッピングサイトのとある商品ページで、舌打ちしながらページを閉じようとした手は、ある一点を見て止まってしまっていた。
 そこには、【めすいき間違いなし!】と書いてあったのだ。
 そういった類のものに、使われる対象が男性を想定したものが充実しているとは思っていなかったので驚いた。
 サイトの中を見てみると、色んなタイプの商品が山のように販売されており、目を疑うほどだった。
 しかし、どれも面白そうな機能を持っており、悟浄に使ってやったらどうなるだろうかと考え、悟浄に取っては悪魔のような笑みを浮かべる。
 そうして、思いつくままカートに入れて注文し、先日届いたばかりだった。
 当然ひとりで使う予定もなく、ダンボールに入れっぱなしだったのである。
 そのことをふと思い出した三蔵は、気が向いたので開封することにしたのだった。

「―――で、これは何?」
「見たらわかるだろう」
「もしかしなくても、全部俺に使おうとか思ってる……?」
「他に誰がいるんだ」
「いや、嘘だろ。どこで買ってきたんだよ! 辺な噂になっても知らねぇぞ?」
「ネット通販で買ったから大丈夫だ。八戒に教えてもらったんだが、あれは便利だな」
「八戒はこんなもん買う方法教えてねぇと思うけど?! 三蔵が忙しい時には外に買い出し行かなくてもいいようにって、そういう話じゃなかったか?!」
「それで何を買おうが俺の自由だろうが」
「〜〜〜ッ、八戒ーーーー!」
「観念しろ」

 シャワーを浴び、髪を乾かして出てきた上半身裸の悟浄をそのまま連行してきた。
 さして抵抗もせずついてきた悟浄だったが、寝室に入るなり顔を引き攣らせ、今の会話となったのだった。
 2人も長い付き合いであり、旅先のラブホテルに転がり込んだこともある。
 そこで部屋に常設されている玩具を使ったことがないでもなかったが、結局邪魔だと出番はほとんどなかった。
 それを一足飛びに、どこのAVだよと言わんばかりの品揃えで、悟浄も若干引き気味だった。

「怪我とかしそうだし、今日のところは辞めて……」
「使い方は理解したから問題ない」
「えぇ……そういうとこだけ真面目ぇ……」

 三蔵に一歩も引く気がないとわかった悟浄は、せめてもの妥協点を模索する。

「いっぺんに全部、は辞めようぜ? た、楽しみが一気になくなるだろ?」
「また買えばいいだろうが」
「頼むって、怖ぇよ!」
「てめぇの反応次第だ。無理にはしねぇ。たぶんな」
「そこは言い切ってくれなきゃ困るんですけど?!」
「うだうだ言ってねぇでこっちにこい!」
「いやだ~~~! いつもの3割増しでムードがねぇよ……」

 しかし、こうなった三蔵は止められないことも悟浄は知ってしまっている。
 もうどうにでもなれの気持ちで、悟浄はベッドに身を投げ出したのだった。