黒大豆まとめ

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黒大豆の日常が見たいって呟きが自分に跳ね返ってきました。

 本部にある悟浄の自室。目立った諍いもなく、珍しく一日暇を持て余した悟浄はふと思い立って得物の手入れをしていた。

 ある時拾ってから手に馴染み、何となく捨てられずに使い続けている鉄パイプ。こびり付いた血痕やサビを落とすことはできないが、比較的新しい汚れや鉄のくすみは綺麗にできる。

「〜♪」

 煙草を咥え、古びたポータブルプレイヤーのスイッチを押すと、静かなギターのアルペジオが流れてきた。映画『キル・ビル』でも使われた、ナンシー・シナトラの「Bang Bang」だ。

 けだるく甘い女性の歌声が、乾いた音を立てて部屋に響く。

 銃声の歌詞が流れるたびに、悟浄は磨いていた鉄パイプをそっと握りしめた。歌は愛する人に裏切られ、撃たれる悲しみを歌っている。 だが、悟浄がこの歌を聴いて思い出すのはいつだって三蔵のこと。憎悪や絶望ではなく、ただ、愛おしいと感じる存在。三蔵の銃口が自分に向けられる日が来るとしても、それはきっと、悲劇ではなく命を賭けた選択なのだろう。そんな未来を夢想しながら、悟浄はくすりと笑った。

 この歌のヒロインとは違う。自分は、三蔵に撃たれたとしても愛を信じ続けるだろう。

 手入れをしていた鉄パイプから視線を外し、左手の薬指に視線を落とした。先日、三蔵が贈ってくれた指輪が鈍く光っている。鉄パイプを扱うことに慣れた無骨な指には、あまりに繊細で場違いな代物だ。

 その時、部屋の扉がノックもされずに開いた。

「てめぇ、こんなところで何やってんだ」

 そこに立っていたのは、ちょうど頭の中で思い浮かべていた想い人その人だった。悟浄は慌てて指輪を握りこむ。

「隠さなくていいだろ」

 そう言うと、三蔵はゆっくりと悟浄のそばに寄り、何も言わずにその左手を掴んだ。指を広げると、そこには悟浄の指に嵌められた指輪がある。三蔵はそれをじっと見つめると、親指でそっと指輪をなぞった。

「……汚すんじゃねぇぞ」

 その言葉に、悟浄は思わず笑みがこぼれた。

「そりゃ無理ってもんでしょ。でも、汚れたら綺麗にするし、大事にするよ」

 悟浄の言葉に、三蔵はわずかに口角を上げた。そして、悟浄の指先からゆっくりと顔を上げ、唇を重ねた。

「俺は消えたりしねぇし、お前を撃つつもりもねぇからな」

「ッハ、たまたま流れてたんだよ」

 そして、ポータブルプレイヤーのスイッチを切り、二人は寝室へと消えていくのだった。