ゆけ!ロボット掃除機!

後書き部分が楽しかったです。
生暖かい目で読んでください。

 さて本日の三蔵は、ロボット掃除機と対面していた。
 しかし、もう以前の三蔵ではない。きちんと取扱説明書を手に対面しているのだった。

「これ、勝手に掃除してくれるんだぜ。三蔵が毎日掃除機持ってるとこって想像できないし、絶対これはあった方が良いって!」

 そう言ったのは悟空だったか。
 余計なお世話だとは思ったが、勝手に掃除をしてくれるのは確かに魅力的だと思い、言われるがまま購入したのだった。
 しかしこれがまた、スイッチを押して終わりとはいかないシロモノであった。

「なんだって最新家電ってのはこうもややこしいんだ……」

 悟空に「俺が困るから」と渡されたスマートフォンと連携が必要らしく、取扱説明書に従って専用アプリをダウンロードし、設定をしていく。
 途中、名前を決められる項目があり、家電に名前を付けるという行為には心底疑問を感じたが、ふいに思い立って「ゴジョウ」と入れてやった。
 床を這いずり回る姿はまさしく触覚の生えたヤツだ。お似合いだろうと一人ほくそ笑む。
 部屋の隅へ設置し、スマホで操作するとゴジョウはブーンと控えめな音を立てて動き始めた。

「疲れたな……」

 茶でも入れて一息つきたいところだが、ゴジョウが家の中をウロウロしているのでなんとなく居場所がない。
 外で煙草を吸うことにした。

「あれ、今から出掛けるとこだった?」

 外に出ると、悟浄がこちらに向かって歩いて来ているところだった。
 手には膨らんだ紙袋を持っている。煙草を吸うだけだと伝えると、じゃあ荷物だけ置いてくると言って中に入っていった。

「なるほどね。ヤツがいるから外で煙草吸おうってわけか。案外可愛いとこあんのな」
「違う。落ち着かねぇだけだ」
「ま、そのうち慣れるでしょ」

 隣で煙草を咥えた悟浄は、顔をぐっと近づけて三蔵の煙草から火をつけた。
 二つの煙が混じり合いながら静かに空へ上って溶けていく。
 何を話すわけでもなく、煙草を一本吸う間二人は並んでいた。

「なーんか、旅の間のことを思い出すな」

 確かに悟浄と二人、外で煙草を吸うのは久しぶりだったかもしれないと三蔵は思った。
 長い旅の間はそんなことしょっちゅうでウンザリしていた程だったが、こうして振り返るようになると懐かしくなってくるから不思議だ。

「じゃあ、こういうのも懐かしいか?」

 煙草を奪い取って、掠めるようなキスをした。

「ちょ、お前ここ外だし周りに人がいたらどーすんだ」
「わざわざこんなところまで、俺の様子を見にくるのはてめーらしかいねぇよ」
「だからって、あのねぇ……」

 珍しく、キスごときで赤面している悟浄を見るのは気分が良かった。
 奪い取った煙草をそのまま自分のと一緒に灰皿に押し付けて、悟浄の手を引いて家の中へ戻る。

「中でヤれば、いいんだろ?」
「やだ、強引~」
「今更ムードが必要か?」
「ハハッ、あっちより先に鳥肌が立っちゃいそう」

 そんな軽口を言い合いながら、ベッドに縺れ込んだのだった。




「そろそろ終わったんじゃねぇの?」

 悟浄がそう言ったタイミングで、三蔵のスマートフォンがヴヴッと震える。
 画面をみると、ゴジョウが掃除を終えましたという通知だった。
 隣でヒョコヒョコ動く触覚が目の端にチラついて、思わずフッと笑ってしまった。

「え、なに? そんなに面白いこと書いてあんの?」
「別に」

 三蔵はすぐに真顔に戻ってスマートフォンをベッドのサイドボードに置いた。
 これは、三蔵だけの小さな秘密。
 ゴジョウと名前を付けたなんて知られては馬鹿にされるに違いないのだから。

「飯、食うだろ」
「何だよ教えろよ~。ケチ坊主~」
「煩ぇ。てめぇにだけは絶対教えん」
「余計に気になんだろ!」

 しばらく三蔵の肩に顎を乗せて引っ付きながらうだうだと言っていた悟浄だったが、三蔵の笑った顔を見られるのは滅多にないからと、秘密を聞き出すのは諦めたようだった。

 掃除を終えたゴジョウは部屋の隅にきちんと戻っており、充電中のランプがゆっくりと点滅していた。
 なかなか従順で働き者のいいヤツだ。他の家電たちよりはよっぽど可愛げがあるなと三蔵は思った。

「こういうのさー金には困ってないんだし買えばいいじゃんって八戒に言ったんだけどさー。『僕は自分でやりたいんです』って聞かないの。だから最新のスティック掃除機買ってさ。したら、よっぽど気に入ったみたいで、毎日毎日飽きもせず掃除機かけるからちょっと困ってんのよね。八戒とロボット掃除機、いい勝負すると思うぜ」

 何の勝負だ、とは思ったが三蔵は口にしなかった。







 突然ですが、皆様初めまして。
 私、ロボット掃除機のゴジョウと申します。
 ゴジョウというのは、ご主人様が付けてくださった名前です。大変気に入っております。
 ご主人様は私が働き始めると、気を使って外に行かれてしまうような大変お優しい方です。
 そんなご主人様には、私と同じく「ごじょう」というお名前の恋人がいらっしゃいます。
 お二人はとっても仲が宜しく、ごじょう様が来られると嬉しそうなご主人様に私まで嬉しくなってしまいます。

 ですが、一つ困ったことがあるのです。

 私はロボットでございますので、決められた通りに働くことしかできません。
 これに関してはいつももどかしく思っております。
 小さくも高性能な目で空間を認識し、お部屋の隅々までお掃除させていただくのが使命でございますが、順番にお部屋を回らせていただいておりますので、ご主人様のご都合によって特定の場所だけ後回しにすることができないのです。
 私の気遣いが足りず、不徳の致すところでございます。
 特に、ご主人様とごじょう様がお洋服を全て脱がれてベッドの上で……ああ、そんな、私の口からは……申し上げることができないほど仲が宜しい様子で、あの、お美しいお身体を密着させて、普段とは違ってまた一段と素敵なお声でごじょう様のことを呼ばれて……。

 そう、お二人の世界が出来上がっている所に私、お邪魔などしたくはないのです!
 ですが、もうお掃除の終わっていないお部屋はこのお部屋しかないのです!
 ああ、私本当にお邪魔をするつもりではなく!
 私に気づかれたごじょう様がこちらを見る時のあの表情ったら、私までドキドキしてしまうほどです。
 ですが、ご主人様はちょっぴり意地悪ですので、私に気づいたとしても関係ありません。
 ごじょう様には大変申し訳なく思いながらも私は使命であるお掃除を全う致します。
 隅々まで綺麗になりましたら、急いでお部屋を出ていくのです。

 ですが、私は気づいてしまったことがあります。
 ご主人様は、ごじょう様が来るときに私をわざと働かせているようなのです。
 ちょっぴり恥ずかしがるごじょう様を楽しんでおられます。
 それに気づいてからは、私は急いで掃除をしなくても良いのだと気が楽になりました。
 お掃除以外でもご主人様のお役に立てているというのは素晴らしいことです!

 さて、今日もごじょう様がいらっしゃいました。

 今日もお仕事、頑張らせていただきます!